B Corp特集 #03 B Corpはいかにして「地域」と「世界」をつなげるか / 後編 [Japanese]

Products Story

前編に続いて、後編をお届けします。

 

 


 

 

 

マイノリティこそが最先端

 

岡部) 平田さんの本を読んだんですけど、昔DJをやられていたんですね。ぼくも世代的には近いのかなと思うんですけど、どんな音楽が好きなんですか?

 

平田) テクノですね。ミニマルテクノっていう、超コアなジャンルを回してました。

 

岡部) どういうクラブに遊びに行ってたんですか?

 

平田) いちばん行っていたのは「Yellow」ですね。ほかには「LIQUIDROOM」とか「MANIAC LOVE」とか。

 

岡部) なるほど。じゃあ、絶対どっかでは会ってますね。平田さんが持たれているそのDJ的感覚とか文化が好きな感覚と今の初期といえるB Corpに引っかかる感覚っていうのは、近しい気がぼくは勝手にしているんですけど。

平田) いや、DJ的感覚が経営に生きてる感じはありますよ。

 

岡部) ですよね。セレクトとタイミングが大事ですからね。

 

平田) 結局DJは、人の音楽でDJやるわけですよね。だから、自分で音楽はつくらない。でも、つくるんですよね。人のものをキュレーションしてつくる感じがDJにはあって、店をやるのも経営をやるのも、まさにそういう感じなんですよね。いろんなリソースを使ってつくるとか、商品をセレクトするとか。

「結局いまもDJなんですね」って前に言われたことがあって、確かに似ているんだと思います。キュレーションしたり、集めたり、選んだり──それによって世界観をつくる。自分から生み出しはしていないですけど、人がつくってくれたものを借りて、自分なりの世界をつくるみたいなのが得意なんだなって思いました。

あとは、DJしていたときの人脈が経営に役立っている感じもありますね。音楽のジャンルがコアだったんで、集まってる人もコアだったんですよ。その後ビジネスを始めた人とか、地域通貨やってる人から環境問題に取り組んでいる人まで、そのときの友だちにすごく多くて。みんな、別の分野で活躍されている方が多いんですよ。

岡部) いっぱいいますよね。

 

平田) 当時アメリカから来ていたDJは、都市部のレーベルからレコードを出しているのに、住んでいるのはめちゃくちゃど田舎だったんですよ。「なんで?」って聞いたら、「都市圏に住むことで環境を破壊してることにつながっているような気がしてて、できるだけ自然の中に身を置いていたい」みたいなことを言ってて。結構そういう人たちの思考に影響を受けているところはあると思いますね。あの当時だから、30年くらい前の話ですよ。その頃に、環境問題に関心がある人とか、地域通貨の話してるとか、資本主義がどうのこうのとか話している人が、日常的に周りにいたので。

 

岡部) いたいた。その時代のそういう音楽に対して、もしくはDJを取り巻くカルチャーに対して興味がある人と、いまのB Corp的な文脈におけるおもしろさって、けっこう親和性があるとぼくは思っていて。

 

平田) 確かにそうかもしれないですね。私が最近講演で話したのは、マイノリティの人って社会的には弱者と思われがちですけど、マイノリティこそが最先端ということなんですね。「地域で何かやろうとすると、『人と違う』って異物みたいに扱われるんですけどどうしたらいいですか?」っていう質問があったときに、わたしは「それは良かったですね、最先端ですよ」って言うんです。歴史を見ても、とんがった人は時代より先に行っている人で、時代はあとからそこに追いついてくるんですって。

例えば、長崎の出島って、江戸時代に鎖国をしていた頃に出島だけしていなかったんですよね。いま何百年経っても、その時代に生きた人の感覚が受け継がれている気がします。本州から見ると、長崎含めた九州の文化度には勝てないなって行く度に思います。感度が違うから、やっぱり行動とか捉え方が早いんですよね。

 

岡部) おもしろいですね。

 

平田) そういう意味でも、「マイノリティーは最先端」だと感じています。おそらくそのとき私がDJをやってたのも、マイノリティで。いまB Corpを取得してる人たちも、マイノリティで、先端なんですよね。でも世界に出て行くと、日本が30年くらい遅れているから、普通になる。そういう時間軸のずれがあるんだと思います。

わざわざのこれからの姿勢の宣言として

岡部) 平田さんは、わざわざのこれからをどういうふうにしていきたいと思っているんですか?

 

平田) 昨年、起業して14年目にして初めて中長期事業計画を書いたんです。そのなかで、今後10年で40億円規模の企業になることを目指していて、そのための戦略のひとつとして、「わざマート」をチェーン化することに決めました。ECをこのまま拡大させていくことに加えて、「わざマート」の実店舗を増やしていく。長野県内に、10年で32店舗を出店しようっていう計画をいま立てているんです。しかもフランチャイズではなく、全部本部運営で。

 

井筒) すごい。良い規模ですね。

 

平田) 私は、いい店がたくさん増えることが、移住者を呼ぶひとつの秘訣だと思っていて。日常の買い物が不便なくできると移住したくなる町になるっていうのは、アンケートでも出ているんですよね。だから「わざマート」を魅力的な長野のエリアに出店してくことで、「わざマートがあるから長野に移住したい」っていう人を増やしたいと思っています。

1店舗目の「わざマート」は実験店舗という位置付けにしていて、あそこの販売データを分析して、出店戦略を練っているところです。3店舗目くらいまでは出すエリアの目安も付けていて、それで自分が描いたとおりの未来が実現できそうだったら、そこから加速度的に出店してこうかなと思っています。

 

岡部) 出店エリアは長野に限定するんですね。

 

平田) そうですね。将来的には「わざマート」を全国にチェーン展開させたいと思っているんですけど、結局地の利っていうのが圧倒的にわざわざの成功要因だと考えています。いまうちが東京に出店してうまくいくかといったら、そうでもないと思うんです。考え方も、家賃も、集まる人も違う。だから、まずは自分がよく知っている地域で実践して、そのパターンを分析して「いける」って思えればほかの地域に行こうかなと思っています。

そのときにはもう、完全に物流とインフラの勝負になると思っていて。1日しか賞味期限がないような生鮮食品を絶やさず売るためには、システムと物流網をしっかり組めるかどうかだと思うんです。それはもう、小売業のなかでもめちゃめちゃ難しいとは思うのですが。

 

岡部) その難しいビジネスを、平田さんはなんでやりたいんですか?

 

平田) 難しいこと、めんどくさいことをやるならうちだろうって思っているからですね。良いものを流通させるって、いちばん難しいからみんなやらないんですよね。添加物を少なくすればするほど、賞味期限が短くなって、地域の農産物を売ろうと思えば地域連携が必要になって、複雑になっていく。だからみんな、手軽に仕入れられるものを広く流通させている。

 

岡部) なるほど。

 

平田) そういうめんどくさいことは大企業にはやるメリットがまったくないんで、参入障壁が高いと考えています。そこはたぶん競合が少なくて、だからこそ勝てるだろうと思っています。でも、地域の人にとっても、外の人にとっても、やる価値は高い。やれる人がいないと思うからこそ、やりたいと思います。

この「わざマート」の1店舗目も1年経つんですけど、いけそうな気がしてきていて。ここの人口って3万人と言われているんですけど、エリア的には市町村合併していて、5,000人の村だったエリアなんですよ。そこで1万円くらいする蒸留酒とか200~300円の豆腐を置いて成立するって、驚異じゃないですか。その事実がもう、揺らぎないなと思っています。

岡部) 平田さんにとってB Corpは、自分が良いと思う店舗であり続けるための宣言のようなものなのかもしれないですね。

 

井筒) 少しだけ話をB Corpの文脈に戻すと、次の10年で平田さんがいまお話された目標を達成するにあたって、「B Corpを持っていること」がプラスに働くためには、国内のB Corpムーブメントがどうなっているといいと思いますか?

 

平田) いや、もう広まってくれるのがいいことは間違いないと思います。できるだけ大きい企業が取ってくれてるのが、いいでしょうね。例えば、ユニクロがB Corp取りましたとなったら、みんな知りますよね。ユニクロの商品すべてに「B」が付いたらみんな気になるでしょうし、ユニクロがそういうプレスリリースを出したら読む人も増えるし、B Corpの特集が至るところで組まれると思うんですよ。だから、できるだけ社会的影響力が強い企業が早めに取ってくれることが、日本でB Corpが広がるきっかけになるのかなって。

 

井筒) 本質的ではないかもしれないですが、認知力をあげることでしか始まらないですもんね。

 

平田) なりますよね。先ずは認知が拡大するのがすごくいいなって思っています。

思想を共有したものづくり

岡部) B Corpを持っている者同士、思想を共有しているわざわざさんとナイスコーポレーションで何か一緒にものづくりができたら、いろんなことがより伝わっていくんだろうなと期待しています。

 

平田) そうですね。ジーンズつくりましょう。

 

井筒) つくりましょう。BとBで一緒につくることに新しい価値がありますからね。

 

平田) でも、ジーンズは世の中にすでにたくさんあるじゃないですか。そこでわざわざがデニムをつくる意味は考えないといけないですね。

私たちは、つくる基準を2つ決めていて。「ないからつくる」と「あるものを生かす」のどちらかでしかつくらないんですよ。「あるもの生かす」というのは、残糸ソックスとか、残糸バッグとか、工場の余り糸でつくるケース。「ないからつくる」の場合は、「パン屋のTシャツ」が代表的な商品なんですけど、探しているけれどどこにもないから自分たちでつくる、機能に特化した商品。だからナイスさんとは、「どこにもないジーンズ」をつくりたいなって思っています。

 

井筒) いいですね。

 

平田) 例えばジーンズは基本的に、立ち仕事が前提で、丈夫につくられているじゃないですか。だから座ったときに、お腹のところが食い込んだり、痛かったりしてしまって、伸縮性のないのがやっぱり嫌で。とくに私は出張が多いから、服は軽量化したくて、洗ったときにもすぐに乾いてくれたほうがいい。ホワイトカラーの仕事をする人が増えている、現代のワークウェアとしてのジーンズをつくりたいなって思います。

 

井筒) 動きやすかったり、コンパクトになったり。

 

平田) そういった現在のジーンズにある課題が解決できたらうれしいです。わざわざがやるなら、絶対に定番で。そんなどこにもないジーンズを、ナイスさんとつくってみたいですね。

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