B Corp特集 #03 B Corpはいかにして「地域」と「世界」をつなげるか / 前編 [Japanese]

Products Story

「よき生活者になる」をスローガンに掲げるわざわざは、長野県東御市を拠点に食料品や生活雑貨を販売する会社だ。2009年に「パンと日用品の店 わざわざ」から始まり、現在は喫茶・本・ギャラリーの店舗「問tou(とう)」、良いものをさっと買えるコンビニ「わざマート」、コワーキングと体験型施設「よき生活研究所」の4店舗を運営するほか、2つのECサイトを運営する。2018年に代表の平田はる香さんの書いたnote記事「山の上のパン屋に人が集まるわけ」でその存在を知っている人も多いかもしれない。

 

そのわざわざは、2023年6月にB Corp認証を取得した。これまでにも「事業を行うにあたり利益は必要であるが、それを目的化しない」という考え方で、作る人、売る人、買う人の三方にとってよいものづくりを実践してきたわざわざだが、「B Corpにはそれを客観的な尺度で測り、より新たな広い視点を与えてくれる可能性を感じ、わざわざはB Corp認証取得しました」と彼らはリリースに書いている。

 

今回の対談が行われる少し前に、平田さんはイベントにてナイスコーポレーション代表の井筒伊久磨と登壇した。その際にB Corpを取得した経緯についてはお話することができたが、時間が足りずに「B Corpをとってからのこと」をじっくりと伺うことができなかった。そこで今回、井筒と外部パートナーとしてB Corp取得に携わった山磨貴幸、そして同社のブランド構築の戦略を牽引したupsettersの岡部修三が、平田さんに会うために東御市を訪ねた。製麺工場を改装してつくったという「よき生活研究所」の広々とした落ち着いた空間で、平田さんに「B Corpをとったその後」のお話を訊いた。

 

 


 

まずは知ってもらうところから

 

平田) 昨年『山の上のパン屋に人が集まるわけ』という本が出たので、いま、その出版記念ツアーをしているんですよ。47都道府県ツアーって銘打ってて。コトの発端は、本の内容をどうやって広めるかっていうところなんですけど、出版元のサイボウズさんと決まった話が、「キャンペーン期間中に100冊買い取ってくれると平田がついていきます」っていうものだったんですね。

井筒) 平田さんが本についてくるキャンペーン。

 

平田) 私の基礎講演40分+その地方に合わせたトークセッションやイベントに出る計2時間のセットで、お金をもらわないでやっているんです。サイボウズさんが宿泊費と交通費だけ出してくれて、私は身体ひとつで行って。だからどっちにも利益はないんですが、本は100冊売れるっていう。

 

井筒) じゃあ、この前岡山に来られたのもそれだったんですね。

 

平田) そうです。で、そこで何を伝えているかというと、必ずB Corpの話を入れているんですよ。自分の創業ストーリーと創業前のストーリー、それからいまこんな現状ですっていうところでB Corpの話を挟んで。そこで「B Corp知ってますか?」って、必ず会場で聞くんですね。規模感としては、だいたい50〜100人くらいのイベントなんですけど、手が挙がるのが1〜2人。多い会場で5人くらいです。

 

井筒) そうなんだ。

 

平田) もう20講演くらいはやったと思うんですけど、ほとんど知っている人がいないから、どういう認定の基準があるかといったB Corpの説明をさらっとして、「アメリカではこんな感じのムーブメントになっていて、おそらく日本もそうなるでしょう」って話すんです。これから商品に「Certified B Corporation」のあのマークがたくさん付いてくるはずなので、買い物をするときは裏をひっくり返して見てねと。

 

井筒) 「B」が付いてるかどうか。

 

平田) 「付いていたら、良い社会になるよう貢献していきたいというB Corpの思想があるから、信頼できる良い会社なんだなって思ってください。それだけでいいです」って。そうやって呼びかけると、やっぱりみんな、結構響くみたいなんですね。

それから最近はお付き合いのある企業にも「B Corp取ってますか?」って必ず聞くようにしていて。興味がありそうな会社に行ったら、「『B Corpとは何か』っていう1時間のプレゼンくらいだったら無料でやるから」って言って、いろんな人を誘っているんですよね。

 

井筒) いいですね。そうやって伝えていくのが必要ですよね。

 

平田) はい。もう単純に、ライフワークみたいにいまはB Corpの普及活動をやっています。起業家たちには、「一緒に取りませんか?」って提案をして。

 

井筒) 思想を持って実行する熱意のある日本の企業であれば取れますからね。

 

平田) 絶対取れる。

 

山磨) そうですね。特に”Workers”の分野では、日本の場合労働法や社会保険など、そもそもの国の制度が充実してますので、普通に事業をされている会社さんだったら特に工夫もなく得点できる部分が多々ありますね。

 

井筒) ぼくらも近所の工場が「B Corp取りたい」って相談しに来てくれて。児島のデニム産地のなかで、B Corpに賛同してくれる地元企業を何社集められるかっていうのをこれから目指していこうとしているんです。というのも、ぼくらは縫製工場として認証されましたが、どこの会社であれ賃金の支払いや労働基準など日本の法律通りに会社をなり立たせているなら、B Corpの審査基準に近いと思ってます。だったらほかの工場も絶対に取れるなと思って。

山磨) B Corpの哲学としても、“Community”の分野で特に顕著ですけど、やっぱりお互い近い距離にB Corpがたくさんいて、その中で密なコミュニケーションや取引がされている、っていう構図が望ましいはずなんですよね。ぼくたちの地域で言うと児島になりますけど、その中心というか草分けにナイスコーポレーションがいる、というイメージです。

平田) めっちゃいいですね。絶対ノウハウは共有したほうがいいですもんね。

 

井筒) と思います。そうやってコミュニティができると、「ここにはB Corpのコミュニティがあって、そのコミュニティでデニムつくってます」って世界にも言えるだろうなと思っていて。

 

平田) いいですね。私たちも、同じ小売の企業には、取得のノウハウを共有するようにしています。B Corpの企業がたくさん増えたほうが、こっちもいいじゃないですか。

あとは同時に同時に消費者にも呼びかけないと、「B」の認証マークがついていても、その価値がわかってくれないと意味がない。だから私は、講演会でひたすら普及活動をしているんです。そういう小さいことが、だいぶ後に効いてくるんじゃないかなと思っています。

岡部) ここまでの話から、改めてB Corpは経営者向けなのかもしれないと感じるので、消費者まで伝えていく工夫が大切ですね。

B Corpに認証されたことによる会社の変化

井筒) ぼくらはB Corpを取った効果が既に始まりつつあって、ウチのB Corp取得における企業姿勢を見てくれて入社してくれるようになったんです。

 

平田) 「採用に効いてる」って言ってましたもんね。

 

井筒) そうそう。

 

平田) それ、すごいなと思って。B Corpの価値を、ナイスコーポレーションさんが言えているということですよね。それは私もやらないとですね。

 

井筒) たぶん、我々の縫製工場はじめ、現場作業の仕事は経験も必要で技術取得にも時間がかかる仕事だって思われている。そのなかで、会社としての企業姿勢を示せているところが、かなり少ないんだと思います。

 

平田) そうですね。

 

井筒) いままでだと、入社しても半年で辞めてしまう子もチラホラいたんですよね。若い子なんかとくに。でもB Corpの文脈に基づいた仕事のあり方というか、例えば「ここのポジションであれば給料がいくらになる」ということをちゃんと明確にして、目標を一緒に考えて悩みを聞いていくと、やっぱりついてきてくれるんですよ。実際に昨年新卒で入った子たちも、1年半続いています。そう言った従業員との対話をする機会であったり評価を一緒に考える事もB Corpの”Workers”にある文脈なので、労使ともに同じ方向を向けてるように思います。

 

平田) すごいですね。めちゃくちゃうらやましい。

 

井筒) わざわざさんのほうでは、B Corpに認証されてから変わったことだとか、よかったことってありますか?

 

平田) いま、日本国内ではまだまだB Corpにブランド力や価値がないので、外から見てB Corpが価値付けされるってことがないんですよ。だから、知る人ぞ知る、の状態なんで、知ってる人がめちゃくちゃ反応するだけで、プラスに働いてる感じは、正直実感としてはないですね。

 

井筒) そんなのあるんだ、くらいの反応ですよね。

 

平田) そう。その「知る人」たちの共感度とか、すごいねってよりファンになってくれる感じはあるんですけど、B Corpを取ったから商品が売れるようになったとか、B Corp取ってるから採用が増えるとか、融資がおりるとか、そういうことはいまはまったく起きてない。だから、これからそういうことが起きていくように、いま布教努力をしてるって感じですね。

 

井筒) そのためもあって広めているんですね。

 

平田) そういうことです。もしB Corpの知名度がこの先上がらなかったら、ブランド的には価値がないじゃないですか。自分たちがB Corpを持っているという誇りはあったとしても、やっぱり外から価値が付けられないと、企業的に取得した意味っていうのは小さくなっちゃうかもしれないですね。

とはいえ、自分たちは外的価値がほしくて取ったわけじゃないから、もうほとんど自己満足というか。自分がほしかったから取った、というところはあるんですけどね。あとは、ある一定の人の価値基準に照らし合わせて、自分の事業を見れたっていうのはプラスでした。環境基準とかDEI採用とかガバナンスの面とか、私たちがつくってきた価値基準が世界の標準だったと証明された喜びは、かなり大きいですね。

 

井筒) そう、認めてもらえた感じがすごくある。中小企業としては外から共通の軸で評価されることは大切ですからね。

 

平田) あとは、認証システムを体験できた価値が大きかったですね。「こうやって認証するんだ」っていうことがわかったから、外部から自分の会社を見るということを疑似的に味わえたから、それは今後の経営においてプラスに働きそうですね。

 

井筒) わざわざさんは、各仕入先さんが認証を持ってる・持ってないなど含め、お店にどの商品を置くかを判断するための価値基準を持っているわけですからね。それがB Corpを持ってるから見える価値基準かもしれませんね。

 

平田) そうですね。それを外からもう一度フィルタリングされた感じで。だから、こうやって認定するんだっていう仕組みを知れたのがよかったですね。

地域から世界へ

 

井筒) B Corpの効果を見るという意味では、ぼくらも本番はいまからなんですよ。というのは、B Corpを取ったから我々の募集に対してエントリー/採用に繋がってる、というのももちろんあるんですけど、いま海外で営業活動しているなかで、反応がいいんですよ。「ぼくらB Corp持ってます」と言ったら、「持ってんの? いいじゃん」という話になる。6月にイタリアの展示会に出るんですけど、そこの審査は「何の認証を持っているか」を書き込むところから始まるんですよね。

 

平田) そうなんですね!

 

井筒) だから海外の展示会に行くと、多くの出展企業は何かしらの認証を持ってて。そうやって主催者側はB Corpの価値をわかっているんですけど、来る人たちがどれだけ「B Corpを持ってる岡山のデニム工場」にアプローチをしてくれるかは、6月の展示会に出たときに答えが出てくるかなと思っています。

 

平田) そうですね。

 

井筒) 国内ではまだまだ一般的じゃないですけど、ぼくらはちょっと飛び越えて、まず海外の反応を見てみたい。元々ナイスは海外にも販売していましたが、B Corpで意識を共有できることでさらにどんな影響があるかと、楽しみにしているところです。

 

平田) いや、ほんとそれは共感しますね。私たちも商品をつくっている方の取材に行くんですけど、最近は優秀な経営者の人たちがほとんど国内を見てなくて。日本の市場を見てないっていうか。

 

井筒) ありますね。

 

平田) それは悲しいかな、見てないわけじゃなくて、見ると生きていけなくなるからなんですよね。つまり生存戦略として、海外を視野に入れざるを得ないって状況になっている。日本国内だけで勝負している企業から見ると、そういう人たちは拡大しようとしてたりとか、「日本捨てた」みたいに言われるときもあるんです。だけど、そうじゃなくって、生存戦略としてもう出ていかざるを得ない。

井筒) ぼくらも一緒ですよ。日本国内で商売できてたら、ぼくらも別に海外行く必要はなかったんですけど、それがここ10年で変わったから。

 

平田) ほんとにそうですね。誰も東京の話をしなくなってきて、東京をスルーするんですよね。少し前なら東京の展示会とか、東京での出店数の話をしていたのが、いまはもう、みんな地方から世界に行くじゃないですか。それが変わったなって、ほんとに思います。

 

井筒) 変わりましたよね。

 

平田) 講演会で日本全国を回ってるってさっき言いましたけど、「山の上のパン屋」文脈で行くんで、呼ばれるところが大体僻地なんです。

 

井筒) なるほど。

 

平田) この間は五島列島に行ったり、島根県の津和野町に行ったり。原発のある新潟県柏崎は、3年で人口が3万人減ったらしいんですね。商店街も真っ暗でした。そういうところに呼ばれて、連続して疲弊した日本を見ている気分になっています。一つひとつの地域は何とかしたいと思ってとても頑張っているんですけど、そうした絶望のなかで頑張ってる人たちを見続けていると、事例としては似通っていることを感じます。

 

井筒) 抱えてる問題であったり、そういうところが。

 

平田) そう。この先1億2,000万の人口が9,000万人とか8,000万人に減っていくなかで、絶対にどの町かが残って、どの町かがなくなっていくのかもしれません。じゃあ、どこに活路を見出していくのかを考えると、やっぱり自分たちの周りだけじゃなくて、世界の目線を持っているところが抜けていくのだろうなと感じます。

 

井筒) そうですね。

 

平田) そのためには地域だけで盛り上がろうとしないで、横の地域連携が要りますよね。みんな個で頑張ろうとしがちだけれど、もっと事業連携・広域連携をする、もしくは世界に原資を持ちに行くようなことをしないと勝ち筋はないのかなって、最近強烈に感じ始めています。そう考えると、B Corpを取るっていうのは、海外に出たときの強みになるから、戦略としてはありなんでしょうね。

 

井筒) そうですね、選んでもらう理由になる。ぼくらはそれを体験するために、次の6月っていうのが今後いろいろトライしていくためのポイントになってくると思っています。

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