いま、あらゆる分野において持続可能(サステナブル)な社会の実現が模索されています。なかでも私たちが携わるファッション産業は環境負荷が非常に大きく、製造にかかるエネルギー使用量やライフサイクルを見直す動きが国際的に進められています。衣服の生産、着用、廃棄に至るまでのサイクルを、サステナブルなプロセスにするためになにができるか。私たちが製品開発に取り組むなかで、真っ先に向き合うべき課題はテキスタイルのあり方でした。
私たちが注目したのは大手繊維製品メーカーのクラボウ(倉敷紡績)による再生技術「L∞PLUS(ループラス)」です。これは繊維製品やそれらの生産工程で発生する端材を再資源化し、さまざまな製品へとアップサイクルする取り組み、またはそこから生まれる素材の総称です。私たちは同社のグループ会社である繊維専門商社のクラボウインターナショナルに、オリジナルの再生デニム生地の製造を依頼しました。
「L∞PLUS」の工程
一般的な「L∞PLUS」の資源は、店頭などで回収された廃棄される衣料品、縫製工場の裁断過程で発生する裁断くずなどです。ここから金属製のファスナーやボタンなどの異素材部分を取り除き、生地や裁断くずをわた状態の繊維に戻す反毛という工程を経て、再生糸の原料となります。私たちが使用する再生デニム生地は、これらを紡績したあとに、ロープ染色(糸をロープ状に束ね、望む青色の表現のためにインディゴ染料の液に繰り返し漬ける工程)、製織(織機で生地を織る工程)、整理加工(デニム生地の最終的な表情のために加工を行う工程)という通常のデニムと同じ過程を経て、再び生地となります。
限界への挑戦
私たちは今回、「L∞PLUS」の一般的な再生率6%前後よりも高い再生率17%の生地を依頼しました。多くの「L∞PLUS」の製品は反毛した綿30%、通常の綿70%程度の比率で混紡するのに対し、私たちは混紡の比率を半々まで高めました。こうして再生された糸を経糸に、オーガニックコットンの糸を緯糸に使って再生率17%の再生デニム生地を織っています。
しかし、なぜ比率を高めることが難しいのでしょう。それは安定した品質の実現が大きな課題となるからです。繊維は再生を繰り返すほどに弱くなるという課題があり、強度が下がると生地の製造過程に負担が生じます。一般的な綿花の繊維は長さ28㎜ほどで、その長さで、短繊維綿、中繊維綿、長繊維綿と分類されます。繊維は長いほどに光沢感や高級感がでるため、平均繊維長が35㎜以上の超長綿は特に重宝されます。一方で再生を繰り返すほどに繊維長が短くなるため、全体のバランスを俯瞰していくことが重要です。
NC PRODUCTS独自のプログラム
NC PRODUCTSの初回製品は、弊社工場の裁断くずのみから再生された「L∞PLUS」を使います。ただし今後は私たちも不要になったデニムパンツの回収「リサイクルプログラム」を行い、再生の仕組みに加えていきます。こうした廃棄素材のアップサイクルと同時に、「長く使う」ための仕組みも重要です。デニムパンツの修繕を行う「リプロダクションプログラム」を促進し、より長く愛用される一着を目指します。
工場として取り組み続けること
資源を無限にループさせようとの思いがこもった「L∞PLUS」。新しい原料を積極的に使うのではなく、廃棄素材のアップサイクルで持続可能なループを生むことは、短いサイクルや低価格化による消費のあり方そのものを変えていく世界の新しい潮流です。原綿を使用した通常のデニム生地に比べて再生デニム生地のコストはやや高くなりますが、そこにこそ新しい価値があります。サステナビリティへの取り組みに、まだ明確な答えや定義はありません。しかし地球環境や社会、人を含むすべての生物に配慮した取り組みをこれからも続けていきます。
インタビュー・文:山田泰巨
写真(1, 2枚目):北村 穣(Rudesign / GO motion) (3枚目):曽我部洋平