B Corp特集 #02 会社を変化させていく手段 / 前編

Products Story

アメリカの非営利団体「B Lab™️」が運営する国際認証制度が「B Corporation™️(Bコーポレーション)」です。環境、コミュニティ、顧客、従業員、ガバナンスといった視点から社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対して与えられるもので、B Corp(Bコープ)の通称で知られます。企業のあり方そのものを対象にすることから、事業の透明性や公益性、説明責任などの厳しい基準をクリアすることが求められます。

その認証取得はまず、ガバナンス・従業員・環境・コミュニティ・顧客の5分野から評価査定されるオンライン認証試験「B Impact Assessment(Bインパクト・アセスメント、以下BIA)」で200点中80点以上を取得することが求められます。そのうえで、法的要件の整理、企業運営への質問に対する回答、BIAの求める基準に沿った社内規定などの提出を経て、最後に口頭でのレビューが行われます。取得後も更新は3年ごとに行われ、再びBIAを受けて評価を更新、さらに自社の取り組みに関する「B Impact Report(Bインパクト・レポート)」の提出と公開が求められます。

ナイスコーポレーションはこの認証を2023年4月に取得しました。ここでは代表の井筒伊久磨、外部パートナーとして取得に携わった山磨貴幸、そしてナイスコーポレーションのブランド構築の戦略を牽引し、B Corp取得のきっかけをつくった建築家の岡部修三による鼎談で、取得の過程やこれからを語り合います。

 


 

左から、山磨貴幸、井筒伊久磨(Nice Corporation)、岡部修三(upsetters inc.)

国際的に認証を受けた企業が増加しているものの、まだ日本ではわずかな企業が取得したに過ぎません。なぜナイスコーポレーションはB Corpの取得を目指したのでしょうか。

 

井筒) 縫製業の置かれている現況に疑問をもっていたことがきっかけです。いまの社会において人や環境への配慮はなされて然るべきことですが、僕らの業界は残念ながらそうと言えない状況にあります。賃金や勤務の形態もそうですし、仕事に対してネガティブな印象をもたれることも少なくない。技術習得には時間を要しますが、縁の下の力持ちのような仕事なので報われたとも感じにくい。これでは若い世代が仕事に魅力を感じてくれると思えません。そこでものづくりの可能性を発信し、仕事に対して適切な対価を得られるように自社のあり方を更新しようと考え始めました。縫製工場のブランド価値向上を目標としていますが、つまりは現場がフォーカスされ、いいものづくりをしていると発信したい。それを視覚化する手段のひとつとして、岡部さんからB Corpの認証取得を提案いただきました。

岡部) 井筒さんははじめてお会いしたときから、工場の働き方を変えたいと明言されていました。しかし働き方を変えるといっても具体的な変化は内外ともにわかりにくい。会社の姿勢として何かを打ち出すことが重要だと話すなかでB Corpを紹介しました。井筒さんの思考を伝えていくのに相性も良く、ファッション業界の一端である縫製業が取得することにインパクトもあると考えたのです。ただ取得に難しさが伴うため、仮に取得できずとも挑戦の過程が企業としての理想を追う指針になり得ると考えました。取得は、難しいと思えることにも臆せずに挑戦する井筒さんの情熱がなしたもの。それこそが今回のプロジェクトの根底にあるものだと思います。

井筒) 僕はB Corpが謳う方向性に共感し、会社の指針としても大きな意味を持つと感じました。岡部さんの助言から、まずは可能性を探るためにガイドラインを読み込んだのですが、日本では大企業よりも中小企業のほうが取得の可能性が高いのではないかと感じたのです。

 

岡部) 日本は他国に比べて中小企業が非常に多く、そうした企業はトップダウンで会社全体の意思疎通を図りやすい土壌を持っています。だからこそ中小企業はB Corpを取得しやすいという予感が僕にもありました。留学経験から英語を理解する井筒さんに言語の壁が少ないことも幸いしました。

 

井筒) まず念頭に浮かんだのは、社内のあらゆることを把握した人物が申請に関わらないと取得は難しいということ。そして申請を内部のみで行う難しさも同時に感じました。取得において重要なのは誰と取り組むか。そこで、同時期に仕事で関係のあった山磨さんの能力は理想的でした。今回はいっしょに申請を進めていただいたことで、想像以上に早く取得に至りました。

 

山磨) 私は大学卒業後に経済系官庁へ入庁し、離職後は地元の倉敷市で行政書士をしています。ナイスコーポレーションとは国の補助金事業の採択支援に関するお手伝いで事業に携わり始めました。その作業が一段落したところで、井筒さんからB Corpの取得をいっしょに進められないかと相談いただいたんです。私も井筒さんが冒頭にお話しされた内容をお会いした当初から聞いていたので、理念を実現するには重要なピースになるだろうという印象をもちました。

実際の取得はどのように進められたのでしょうか。

 

山磨) B Corp の認証取得はまず、BIAで各項目から点数を得る必要があります。この行程ではふたつの取り組みが必要でした。ひとつは社是や社内規定の見直しと、それに伴う文書作成。もうひとつは社内のデータを整理して数値化する作業です。前者は今回のタイミングで見直しを行い、現在の会社の状況やBIAが求める水準にあう内容へアップデートし、一部の文書は新たに作成しました。そして後者の作業には賃金情報や取引先情報が必要なのですが、これが社内にしっかり揃っていたことも早期取得に大きく貢献しました。特にB Corpはコミュニティの分野で取引先の情報を重視しており、これは地理的に近い取引先があるほどに地域社会へ収益を還元しているとして点数が高くなります。さらに数値化が難しいと予測していた二酸化炭素排出量のトラッキングも外部サービスの利用で解決できました。

 

岡部) 取得が早かったのは、主観も含みますが最終審査に至るまでの過程と最終審査の内容の二つに大きな要因があるのでしょう。前者は周到に資料を準備したこともありますが、それ以上にナイスコーポレーションが井筒さんのワントップで構成されている会社であることが大きい。規模の大きな会社では取得に対する反対意見やネガティブな議論も起こりやすく、さまざまな承認に時間を要します。しかし中小規模では社内の意思疎通を円滑に進めやすい。さらにナイスコーポレーションには新しい試みに積極的であろうとする会社の勢いもあります。後者として、B Corpが企業の可能性を見ているのではないかと推測しています。ともにコミュニティのカルチャーを育てていける企業に対して積極的なようで、実際に海外でも事例ごとに取得の時間差が大きくあるようです。

 

山磨) 国内におけるB Corpの認証事例は少なく、海外の事例をもとに半年から一年ほどの取得期間を一つの目標としました。ガイドラインを読み込んで資料を作成したので、口頭レビュー以降の審査でも特段問題なく、スムーズに認証取得まで漕ぎつけることができたという印象です。岡部さんが指摘された労使との一体感や会社における風通しの良さに繋がりますが、ナイスコーポレーションにデータ提供を求めると提出が早い。今回の取得に向けた新たな社則では、待遇面なども含めて従業員に強く慮った内容になっています。井筒さんはそれらをスムーズに受け入れ、決定事項をすぐに社員へ共有。それを受け入れる社員側との一体感もあります。従業員の皆さんとの信頼関係を構築されているので、帰属意識や貢献意識も高い。従業員のみなさんは私からの説明もしっかり聞き、納得していただいた印象があります。この文脈でもB Corpは非上場の中小企業やベンチャーに適した認証と言えるのではないでしょうか。日本の大企業に新たな要素を後から組み込むことは難しさを伴います。取得がスムーズに進んだのは外的要因よりも内的要因が大きいでしょう。

井筒) いま当社社員の平均年齢は以前より若くなり、それゆえ新しい試みに面白さを感じてくれるのでありがたく感じています。オープンな気質は先代の時代から続くものでありつつ、児島が地域全体で仕事を回す気風をもっているからかもしれません。互いに足りない部分を補いながら仕事を進めてきた歴史があり、それが風通しの良さに繋がっていると思うんです。データ管理も先代の頃から、銀行、労務士、税理士、行政書士、司法書士といった士業のみなさんに会社を見ていただいたことで資料提出もスムーズに進みました。みなさんの指導のもとで管理はきっちりやってきましたし、資料整理を滞りなく進めておけばデータは提出できます。ですから、当たり前のことを当たり前にやってきたということです。

山磨) 認証過程の口頭レビューでは、取引がある地域銀行の情報、賞与額と会社利益の関係を示す損益計算書情報などの書類を集めて、回答文を作りこみました。B Labからの質問は多方面にわたり、これらにしっかり説明ができる内容として必要だったのです。取得にあたって社内で取り組んだ改善点、改善の計画を進めている点は以下を提出しています。

 

 

実践していること

環境:残反や廃棄物の計量と削減目標の策定、工場稼働電力の再生エネルギー化(100%)、スコープ1・2の二酸化炭素排出量の計測と削減目標の設定

コミュニティ:ジェンダーに関わらない採用や管理職への登用、地元のサプライヤーとの取引関係の維持拡大、地域社会に対する貢献ポリシーの策定

顧客:顧客対応指針など社内向けポリシーの策定

従業員:定期的な社内研修・人事面談の実施、従業員満足度調査の実施と改善、意見箱の設置、労災発生時の反省・フィードバックの仕組み構築

ガバナンス:従業員との財務・損益情報の共有、取締役会での社会・環境指標の監視と改善、管理者間での定例会の開催

 


今後取り組むこと

環境:オーガニック生地の利用促進、自社製品一着当たりの二酸化炭素排出量の算出、スコープ3の二酸化炭素排出量の計測

コミュニティ:地域ボランティア活動への積極的な取り組み、サプライヤー行動規範の取引先への共有

顧客:顧客満足度の収集と分析、商品企画へのフィードバック

従業員:柔軟な働き方の提案と採用、民間機関が実施する検定など外部資源を用いた研修の実施、従業員の健康維持促進を目的とした具体的な取組の考案

ガバナンス:ジョブディスクリプション(職務記述書)と職階制度の構築、会社規模の拡大に伴う職務・役割分担の明確化と組織図の充実

B Corp特集 #02 会社を変化させていく手段 / 後編へ続く。

 

 

 

文:山田泰巨

写真:Shin Hamada

制作協力:Sniite

カートに追加しました