Interview #01 山口歴と考えたアクティブなワークスタイルデニム

Collaboration

NC PRODUCTSは、ベーシックなアイテムの追求とともに幅広い分野のクリエイターとコラボレーションを行うことでデニムパンツの新たな可能性を見いだしたいと考えています。
私たちがはじめてのコラボレーションをお願いしたのは、現代美術作家の山口歴さん。ファッションをはじめ、さまざまなユースカルチャーを取り上げるオンラインマガジン「Hypebeast(ハイプビースト)」からも注目されるように、その影響はアートに留まりません。全身を使った筆の軌跡が立ち上がる作品で鑑賞者を圧倒する山口さんの、過酷な創作に応える作業着。その実現は、私たちにとっても大きな意味をもつ挑戦となりました。
 

2007年に渡米した山口さんは現在、ニューヨーク・ブルックリンに自身のスタジオを構えます。「物心がついたころには画家になるものだと信じ込んでいました。もちろん現実は思うようにスムーズではなかったですが」と振り返る山口さん。彼の作品を特徴づけるのが、勢いある筆の動きによる絵画の手法「ブラッシュ・ストローク」です。これは20世紀中期に発展した抽象表現主義の絵画で多用された手法で、そこに多色の絵具の筆致を貼り合わせる独自の手法「カット&ペースト」を加えて作家性の追求を続けています。今回のコラボレーションで山口さんから求められたのは、「プロフェッショナルな仕様の作業着」でした。
 

「僕はアーティストというよりも、自分自身を絵の具の探求者だと捉えています。絵の具の顔料も自作し、作業に必要なペインティングナイフもオリジナルをオーダーしています。もっと使いやすい道具や色を求めるなか、作業着も、よりプロフェッショナルな、よりコアなものを作りたいと考えていました」
 

 

ストリートカルチャーから生まれたワークウェア

山口さんは、10代から親しんできたストリートカルチャーをクリエイションの源泉に挙げます。デニムパンツもまたストリートカルチャーと親和性が高く、その文化を牽引する若者に愛されてきた日常的な衣服です。スケーターにも人気のある幅広なワイドストレートのパンツが好みだという山口さん。NC PRODUCTSが彼の創作を支えるために制作したのは、ゆったりとしたシルエットで動きやすく、可動域の広さで機能性を高めたワークスタイルのデニムパンツです。

動きやすさと収納を兼ね備えた機能性

今回のコラボレーションでは動きやすさが求められました。山口さんは身体を最大限まで動かして思いきりストローク(筆を動かす)ことも少なくなく、それを邪魔せずサポートできることが重要だったのです。デニムパンツは動きにくいという印象だという山口さんに対し、私たちは可動域が広く、足さばきの良いワイドシルエットを採用することでリクエストに応えました。さらに作業時に膝をつくことの多い山口さんのタフな使い方にも応え、膝の生地を二重構造にすることで耐久性を高めました。ポケットはすべてで6つ。ペインティングナイフ数本を入れられるポケットを両サイドに設け、スプレー缶数本を入れることのできるアクセサリーベルトも制作しています。さらに作業着でありながら、ペイントが付着したデニムパンツをファッションとしても楽しめる上品な佇まいを追求。ベーシックラインのデニムパンツと同じ「L∞PLUS」の再生デニム生地を採用していますが、高密度で厚手の生地は丈夫できめ細かい美しい表情をもっています。

 

「予備校時代からつなぎの作業着を着てきましたが、ファッションを目的とせず作業着としてデニムを履いたのは今回が初めてです。なにより驚いたのは塗料が浸みないこと。これまでの作業着は塗料が浸みるので、作業後はまずシャワーで塗料を落とすことから始めていました。これがなかなか落ちなくて大変なんです。なかなか共感は得られないでしょうが、肌に浸みないことがとてもうれしい(笑)。動きにくいんじゃないかという懸念はまったく問題ありませんでした。想像以上に動きやすく、デニムが作業着に向いた素材だといまさらながら感じました」

試作を重ねながら、山口さんには実際の制作環境で着用を続けていただきました。奇しくも、本プロジェクトは新たな立体作品を制作するタイミングと重なりました。展覧会では新たな表現である立体作品をさらに発展させたものを発表。前作を超えるような作品を前に、彫刻の巨大化は作家にとってある種定石通りだと山口さんは冷静に分析します。

「これからまだまだ大きくしていきたいんです。単純に大きければいいものでもないですが、大きさにしかない魅力もあります。たとえばリチャード・セラ(巨大な金属板を加工したミニマルな彫刻作品で知られる現代作家)の作品には大きさゆえの荘厳なイメージが宿ります。立体作品を巨大化することそのものは新しいアプローチではありませんが、自分の中で違いを見いだしていきたい。海外のギャラリーでは大きな作品を展示することが求められますし、人知を超えてくるようなものだから生み出せるイメージもあります。これまでの作品は半立体的なペイントではあるものの、平面作品として壁にかけていました。しかしキャンバスに縛られない彫刻は自由度が高く、全方位から見回せることで、より自分の思う世界観、イメージをワードレスに伝えることができますね」

 

使い続けてきた青

また新作は、展示のタイトルにも謳われるように青を大きな特徴としています。
「青は、空や海を彩る地球の根源的な色。一方で青春や、人生の設計図という意味合いをもつ青写真という人生のある時期を示す言葉もあります。これはプルシャンブルーという、油絵を始めた10代から使い続けてきた色。インディゴというか、深い藍というか、暗い紫みのある青です」

創作を支えるデニムパンツ

発表時にははじめてのコラボレーションアイテムとして、作品制作時に塗料が付着したデニムパンツ1点を特別にそのまま販売しました。創作の過程で生まれた「作品」さながらの一着は、色と時間を重ねて成長した特別な一着。2023年9月に向けて、無地の同型製品を発売すべく山口さんとの調整を続けています。「言葉を選ばずにいうなら僕の作品は世界になくてもいいものかもしれないし、地球環境に決して優しいものではないのかもしれません。けれど、やはり作品を作りたい。作り始めるとすごく楽しく、生活のすべてといってもいい」と語る山口さんの創作の衝動をサポートするデニムパンツ。その存在は物的な作業はもちろん、彼の精神にも寄り添いながら、今後も制作を支えていきます。

インタビュー・文:山田泰巨

写真(1~5枚目):北村 穣(Rudesign / GO motion)  (6枚目):曽我部洋平

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