これまでさまざまなクライアントのためにデニムパンツを製造してきたナイスコーポレーション。自社ブランド「NC PRODUCTS」のデビューとともに発表した最初の一本が、これまでに培ってきた技術をふんだんに取り入れた「BASIC PANTS 001」です。
デニムパンツのシルエット、フォルム、表情には、スキニー、ワイド、ウォッシュド、ダメージなど、さまざまな表現があります。しかしまずは未来を見据えた新しいクラシックを求めようと、「BASIC PANTS 001」ではストレートタイプを採用しました。ナイスコーポレーションは自社工場で縫製と加工を行っており、すべての縫製工程を人の手で行います。多くの産業でデジタル化が進むなかで、いまなお手仕事の工程を多く要するからこそ、私たちには縫製技術や経験が蓄積されます。その技術や経験を基にした、シルエット、フォルム、表情、そしてディテールで、時代に左右されないデニムパンツを目指しました。老若男女を問わず、誰もが楽しめるデニムパンツ。ここではその縫製ラインの一部を紹介します。
パターン制作
社内で制作したオリジナルパターンによるモデルが「BASIC PANTS 001」です。ここでは生地を切り出すためにCADデータを用紙に出力しています。
職人の手による裁断
切り出したパターンデータから裁断作業を行います。他の製品では自動延反・自動裁断機を使用しますが、少量生産の「BASIC PANTS 001」では職人の手で切り出すことも少なくありません。生地には、ほどよい厚みをもつ14オンスの再生デニム生地を採用します。生地は関連工場にてワンウォッシュを掛けており、縮みにくさや履きやすさも追求しました。
正対称のポケットの取り付け
大量生産品のデニムパンツは、作業効率からバックポケット位置が左右不揃いになっていることがほとんど。しかし「BASIC PANTS 001」はポケットを正対称で取り付け、美しい仕立てとなるように細心の注意を払います。また取り付け前のポケットそのものも生地を三つ折りで縫製し、生地の美しい重なりと高い強度を担保しています。私たちの縫製技術の顔は、角をしっかりと角として表現することだと自負しています。この品質を守るため、工程中に細かなチェックを繰り返します。
腰回りに沿う、立体的なベルトパーツの取り付け
腰回りの収まりがよくなるよう、弧を描くベルトパーツを立体的に取り付けます。カーブを描くパーツの取り付けには縫製技術も必要ですが、そのためには入念な下準備も必要です。それぞれを美しく美しく縫い合わせるためにも、工程のたびに各パーツの丁寧なアイロン掛けは欠かせません。
股の可動域を高める縫製
多くのパンツは前後左右4点の布を縫い合わせていますが、この接点となる「股ぐり」は布の重なりも多く、縫製に技術を要します。私たちは一般的なデニムの直線的な縫製ではなく、スラックスなどに見られる立体的な縫製を採用しました。それは股の可動域を高めて動きやすく、ヒップを包み込むような立体的なラインを美しく表現できるためです。特に強度が求められる股下では、生地端を巻き重ねた上からチェーンステッチで縫合する「巻き縫い」を採用。こうした縫製のディテールで履き心地の良さとシルエットの美しさを実現しています。一方で生地に負荷をかけずに縫うための配慮も重ねています。
強度を高めるベルトループ端部の縫製
ウエストベルトにベルトループを挟み込んで縫製することで、強度を高めています。布の重なりが多いため縫製には苦戦しますが、端部がベルトループ内に収まることで見た目も美しくなります。また縫い止まりを「かんどめ」とすることで強度を高めており、バックポケットでもリベットを採用せずにかんどめでシンプルな見た目と高い強度を求めました。
シルエットを崩さない裾の仕上げ
裾の仕上げ作業。膝下から裾にかけてストレートなラインを長めにとることで、裾上げ後もシルエットが崩れることはありません。サンプルの送付により購入者に裾上げ位置を決定いただき、個々の希望に沿って丁寧な仕上げを行います。
工程数の多さはつまり、ディテールの多さに繋がっています。縫製にミスがないか、技術者とともに仕上がり各所の確認を行います。
佇まいを決めるアイロン仕上げ
最終仕上げとなるアイロン掛け。「BASIC PANTS 001」は、ジャケットと合わせた着こなしも想定しながら、カジュアルになりすぎない佇まいを目指しています。ナイスコーポレーションの本社工場には、アイロン掛けなどを経て最終出荷検品を行うグループ会社が隣接しており、その技術者との密な連携でパンツの最終的な佇まいまで微調整しています。
このように工程の数々で、一手間、二手間をかけて縫製するのが「BASIC PANTS 001」です。そして、それを支えるのはナイスコーポレーションが33年にわたって切磋琢磨してきた技術と経験です。パリやミラノでコレクションを行うメゾンを始め、国内外のブランドや企業とともに製品開発に携わり、縫製技術や提案力への信頼を得てきました。細部まで縫製にこだわった自信の一着を、まずは手に取っていただけたら幸いです。
文:山田泰巨
写真:北村 穣 (Rudesign / GO motion)